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英国の礎を築いたヴィクトリア女王と、彼女の愛したジュエリー

歴代の英国王室の中でも、特に有名な君主といえばヴィクトリア女王です。彼女は、その類まれなる知性と剛健さにより英国に繁栄をもたらし、死後100年以上経過した今でもヨーロッパの祖母と呼ばれ、親しまれています。そんなヴィクトリア女王はダイヤモンドなどのジュエリーを愛した女性として有名であり、夫であるアルバート公から贈られたブローチや婚約指輪を大切にしていたと伝えられています。

今回は、ヴィクトリア女王の生涯と、彼女が愛したジュエリーをご紹介していきます。

 

愛に生きた母性の女王 ヴィクトリアの生涯

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ヴィクトリア女王は、1837年に18歳という若さでイギリス女王に即位しました。彼女が即位したとき、イギリス経済は不安定であり、多くの国民が不安と絶望の中を生きていました。しかし、ヴィクトリア女王が即位してから一転、イギリスは黄金期を迎えることとなります。

 

女王として治世に精を出していたある日、ヴィクトリア女王は身を焦がすような恋におちます。その相手はドイツの王子であり、彼女の同い年のいとこでもあるアルバート公です。アルバート公は教養があり、知的で聡明な人物であったと伝えられています。また、きりっとした顔立ちの絶世の美男子だったそう。非の打ち所がないアルバート公に、ヴィクトリア女王は心惹かれていくのです。

 

ヴィクトリア女王は政略結婚を退け、自らアルバート公に結婚を申し出ました。なぜなら、喩えお互いに思い合っていても女王への求婚は許されていなかったためです。アルバート公の心からの愛を欲したヴィクトリア女王へ返された言葉は、もちろん「Yes」。アルバート公はヴィクトリア女王を支え続けることを誓い、1840年にセントジェームス宮殿で結婚式が執り行われ、二人は晴れて夫婦になりました。愛する夫との間に4男5女を授かったヴィクトリアは女王としてだけでなく、妻として、母として、大きな幸せを手にしたのです。

 

しかし、温かい家庭と子宝に恵まれた結婚生活は、ある日突然に幕を閉じます。結婚から17年後の1861年12月14日、ヴィクトリア女王は最愛の夫であるアルバート公を病で失います。42歳という若すぎる死でした。深い悲しみに包まれたヴィクトリアは喪に服し、公式の場に姿を見せなくなります。

黒い喪服を身にまとい、公務を遠ざけてアルバート公の幻影に寄り添う彼女は「The Widow of Windsor(ウインザーの未亡人)」と呼ばれました。

 

その後、ヴィクトリア女王は心の悲しみに鍵をかけ、気丈にも女王としての生涯を全うします。そして20世紀を迎えた1901年、64年もの長い統治を終えた彼女は81歳7カ月という長い人生に幕を下ろし、アルバート公のもとへと旅立ちました。

 

彼女の傍にはいつも、愛する人とジュエリーがあった

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ヴィクトリア女王は夫であるアルバート公へそのひたむきな愛を一心に注ぎ、アルバート公もまた彼女へ真摯に愛を誓いました。羨望してやまないほどに美しい二人の愛の物語は、ダイヤモンドをはじめとするジュエリーを通しても垣間見ることができます。

 

婚約指輪といえばダイヤモンドリングを連想しますが、ヴィクトリア女王はエメラルドがあしらわれたゴールドのスネークリングを婚約指輪に選びました。ヨーロッパでは蛇は「永遠の愛」を象徴する生き物であり、婚約指輪はもちろん、恋人へのプレゼントモチーフとしても人気が高かったそう。ヴィクトリア女王の蛇を模した婚約指輪はたちまち国民へと広まり、スネークリングを贈る人々がさらに増えたとされています。

 

加えて、英国王室ではサファイアを使用したジュエリーも婚約の贈り物として選ばれます。アルバート公がヴィクトリア女王のために選んだのは、大きなサファイアのブローチ。結婚式の前日、ヴィクトリア女王がいる居間を訪れ、サファイアとそれを囲むようにあしらわれた12個のダイヤモンドのブローチを手渡しました。結婚式当日、ヴィクトリア女王は白いレースのウェディングドレスに、ダイヤモンドのイヤリングとネックレスを身に付けて式に臨みました。もちろん、その胸元にはアルバート公から贈られたサファイアとダイヤモンドのブローチが光り輝いていました。

 

結婚式から5年後の1845年、アルバート公は自らがデザインしたティアラをヴィクトリア女王にプレゼントします。ゴールドのフレームに、エメラルドとダイヤモンドがあしらわれたティアラは肖像画にも残されており、その絵画から同様のイヤリングも作られていたことが判明しました。なお、ヴィクトリア女王はこのティアラを王室の資産にはしなかったそうです。

 

さらに、ジェットと呼ばれる漆黒のアンティークジュエリーを一躍ブームにしたのはヴィクトリア女王だと伝えられています。

ジェットとは、古代の松や柏が化石化して生まれた黒玉のことであり、艶と美しい光沢が魅力のジュエリーです。柔らかいことから加工や細工がしやすく、そのままの状態ではマットな質感ですが、磨くことで艶を帯びます。ジェットは15世紀後半ごろから「モーニングジュエリー(喪のジュエリー)」として用いられていました。

19世紀後半にアルバート公が亡くなり、喪に服している間、ヴィクトリア女王はジェットをモーニングジュエリーとして身に付けていました。それを皮切りに、ジェットはヨーロッパ中でブームになったそうです。

 

婚約指輪をはじめ、アルバート公から贈られたダイヤモンドやサファイア、エメラルドのジュエリーはヴィクトリア女王の何よりの宝物でした。そして、最愛の人を失い暗闇の中を彷徨っていたヴィクトリア女王の傍には、いつも幸せの記憶を宿すジュエリーたちが寄り添っていたのです。

 

愛の記憶は永遠に語り継がれる

ヴィクトリア女王の統治していた時代は、かつては権力の象徴として君臨していたダイヤモンドのように、まばゆい光であふれていたことでしょう。そして、長きに渡り女王としての責務を果たしたヴィクトリア女王もまた、ダイヤモンドに負けないほど強く、燦然とした輝きを放っていたことでしょう。

ヴィクトリア女王とアルバート公の愛の記憶は、決して消え去ることはありません。時を越えてなお語り継がれる史実が、二人の愛の風化を決して許しはしないはずです。

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