コラム

歴史

“オルロフ”と“ムガールの星”は同じダイヤモンドなの?

婚約指輪に使われる人気の宝石、ダイヤモンド。その長い歴史の中では、壮絶な逸話を持つダイヤモンドも多く誕生しました。“オルロフ”と“ムガールの星”というダイヤモンドもその仲間。この2つのダイヤモンドは、それぞれに魅力的な逸話を持ちながらも、「実は同一のダイヤモンドではないか」といわれています。そこで以下では、そのオルロフとムガールの星の謎についてご紹介します。2つのダイヤモンドの謎を紐解いていくことで、隠された歴史の真実に触れられるかもしれません。

オルロフ・ダイヤモンド(Orloff Diamond)の生涯

2
オルロフ・ダイヤモンドは、1774年にロシアの貴族であるグレゴリー・オルロフ伯爵によって、ロマノフ王朝の女帝エカチェリーナ2世へとプレゼントされました。重さは190カラット以上、卵を半分にカットしたようなめずらしい形をしています。また、上部にはローズカットというカット方法が施されていて、底は平らになっています。透明でありながらも青みのあるグリーンがほんのりと感じられる、不思議な色合いをしています。エカチェリーナ2世は、オルロフ・ダイヤモンドを自身の王笏(おうしゃく)に飾り付けて愛用していたといわれています。なお、その王笏は現在もモスクワのクレムリン博物館にて大切に保管されています。

実は、ダイヤモンドの贈り主であるグレゴリー・オルロフ伯爵は、女帝エカチェリーナ2世の愛人であったと伝えられています。しかし、オルロフ伯爵は、徐々にエカチェリーナ2世から距離を置かれるようになります。その状況を悲しみ、悩んだオルロフ伯爵は、エカチェリーナ2世の愛を再び取り戻そうと、彼女にオルロフ・ダイヤモンドを贈りました。その結果、見事エカチェリーナ2世はダイヤモンドを気に入り、ダイヤモンドにオルロフ伯爵の名前をつけました。しかし、それはダイヤモンドが愛されただけ。エカチェリーナ2世の愛が再びオルロフ伯爵に向けられることはありませんでした。寵愛を失った事実に耐えられなかったオルロフ伯爵はエカチェリーナのもとを去り、狂気の中で息を引き取ったそうです。

しかし、そのあと不思議なことが起こります。オルロフ伯爵の死後、エカチェリーナ2世の愛人たちが次々に不可解な死を遂げたのです。また、エカチェリーナ2世が亡くなったあと、ロマノフ王朝の王位とオルロフ・ダイヤモンドを受け継いだ皇帝たちも悲惨な死を遂げました。さらに1917年のロシア革命で、当時の皇帝であったニコライ2世とその一家、王家の親戚縁者、王家に仕えていた人々もすべて処刑され、ロマノフ王朝はまるで呪われたかのような終幕を迎えたのです。

ムガールの星(Great Mogul Diamond)の生涯

3

ムガールの星の所有者は、タージ・マハルを建設したとされるムガール帝国のシャー・ジャハーンの息子・アウラングゼーブです。ムガールの星は、1550年頃にインドで発見されたといわれており、原石の大きさは780カラット以上あったと伝えられています。ダイヤモンド内部の傷を消すためのカット・研磨が施されたことで280カラットまで小さくなったのですが、実はこのカット・研磨はミスだったとか。怒ったアウラングゼーブは、研磨師に厳しい罰を与えました。この逸話は、ヨーロッパの宝石商であるタベルニエが記した旅行記に書かれています。旅行記にはインドを旅していたタベルニエが、ムガールの星を実際に見たという記述も残されています。タベルニエは、カットされたムガールの星について「卵を2つにカットしたような姿」と表現しています。

その後、アウラングゼーブはムガールの星を寺院へと寄贈するのですが、その際に「かの石に触れるものに災いあれ」という言葉を残します。実は、さらにその後、ムガールの星は盗まれることになるのですが、アウラングゼーブの言葉通り、ムガールの星を盗んだ者をはじめ、ムガールの星に関わった人々にはさまざまな災難が訪れたそうです。そうして数々の災難を駆け抜けたムガールの星は、ペルシャがデリーを攻め落とした際に戦利品として持ち去られます。これはあくまで一説ですが、ムガールの星はこのときを最後に歴史の表舞台から姿を消します。

それから長い月日が経過し、ムガールの星によく似たオルロフ・ダイヤモンドがアムステルダムのオークション会場に姿を現しました。卵を半分にしたような独特の形は、歴史に2つとないめずらしさ。そのダイヤモンドを購入したのがオルロフ伯爵であり、こうしてムガールの星は歴史の舞台をロシアへと移したのではないかといわれています。

婚約指輪にこめる、まっすぐな愛

5

歴史に名を残す2つのダイヤモンド。しかしながら、ムガールの星には確かな記録が残されていないため、その真実は永遠の謎といわれています。

ただオルロフ・ダイヤモンド、もしくはムガールの星がさまざまな人に求められてきたように、ダイヤモンドは見る者を虜にする力を秘めていることは確かです。オルロフ伯爵もその力を信じて、エカチェリーナ2世に愛をこめてダイヤモンドを贈ったのでしょう。

ダイヤモンドが婚約指輪や結婚指輪に使われることが多いのも、まっすぐな愛をこめるに値する力のある宝石だからこそ。婚約指輪をはじめとするジュエリーを艶やかに飾るダイヤモンドは、女性たちの永遠の憧れです。ダイヤモンドの婚約指輪をはめてもらうシチュエーションを夢見る乙女も多いのではないでしょうか。ダイヤモンドの婚約指輪が添えられたパートナーの薬指―それはかつてのオルロフ伯爵も渇望したものなのかもしれません。

一覧へ戻る

関連コラム

この記事を読んでいる人はこんな記事も読んでいます

新着コラム