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インド・ペルシアの秘宝 3人の皇帝名が刻まれた“シャー・ダイヤモンド”

婚約指輪のジュエリーとして使われることの多いダイヤモンドは、歴史のなかにしばしば登場します。なかには、人を惑わすほどの美しさから、固有の名前がついて現在まで語り継がれているダイヤモンドも。
今回ご紹介するのは、そんなダイヤモンドのひとつ“シャー・ダイヤモンド”です。3人の皇帝の名が刻まれたシャー・ダイヤモンドは、どのような歴史を辿ってきたのでしょうか?

研磨されずに受け継がれてきたダイヤモンド

Sample of a beautiful natural raw Herkimer Diamond specimen over black background

婚約指輪に使われるものに限らず、ダイヤモンドはその美しさを最大限に引き出すため、職人の手によって研磨されます。そうすることで輝きを増し、美しさ、あるいは権力の象徴となるのです。
しかし、今回ご紹介するシャー・ダイヤモンドは一部のみが研磨されており、全面がきれいに整えられているわけではありません。

シャー・ダイヤモンドは透明度の高いイエローダイヤモンドで、形は角棒状、重さは88.70カラットです。
その最大の特徴は、3つのファセット(カッティングした面)にそれぞれ皇帝の名前が刻まれていること。シャー・ダイヤモンドは、現在のインドとイランを舞台に数々の皇帝の手を渡り歩いてきたのです。

シャー・ダイヤモンドに名前を刻んだ3人の皇帝

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1450年にインドで発掘されたと考えられているシャー・ダイヤモンドは、さまざまな国の数々の皇帝に所有されてきました。そのうち3人が、そのファセットに自らの名前を刻んでいます。

ブルハン・ニザン・シャー2世

最初に名前を刻んだのは、アフマドナガル王国の皇帝“ブルハン・ニザン・シャー2世”です。
アフマドナガル王国とは、1489年~1636年に現在のインド西部に存在していた国です。その皇帝であったブルハン・ニザン・シャー2世は、1591年に自分の名前をシャー・ダイヤモンドに刻みました。
しかし同年、インドにて支配的な力を持っていたムガル帝国に侵攻され、シャー・ダイヤモンドを奪われてしまいます。

シャー・ジャハーン

次に名前を刻んだのは、ムガル帝国の5代目皇帝“シャー・ジャハーン”です。シャー・ジャハーンは、タージ・マハルを建立した人物としてよく知られています。
ムガル帝国の3代目皇帝“アクバル”によって、シャー・ダイヤモンドはアフマドナガル王国から奪取されました。その後子孫に受け継がれ、アクバルの孫であるシャー・ジャハーンによって2人目の名前を刻まれます。これが、1641年のことです。
シャー・ジャハーンの子であるアウラングゼーブ・アーラムギルが王座にシャー・ダイヤモンドを飾っていたことから、このダイヤモンドは皇帝の権力を象徴するものとして扱われていたことが分かります。
それからもシャー・ダイヤモンドは、ムガル帝国の皇帝に代々受け継がれていきます。

ファトフ・アリー・シャー

最後に名前を刻んだのは、カージャール朝(現在のイラン)2代目皇帝“ファトフ・アリー・シャー”です。
ムガル帝国が所有していたシャー・ダイヤモンドは、“ナーディル・シャー”によって奪われ、現在のイランであるペルシアの地へやってきます。その後、ペルシアにて代々受け継がれ、ファトフ・アリー・シャーの手に渡ったとき、3人目の名前を刻まれることになります。これが、1826年のことです。

その後のシャー・ダイヤモンドの行方

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そのファセットに3人の皇帝の名前を刻まれたあと、シャー・ダイヤモンドはファトフ・アリー・シャーの手から離れることになります。

ファトフ・アリー・シャーがシャー・ダイヤモンドに名前を刻んだ2年後の1829年、ペルシアを訪れていたロシアの大使“アレクサンドル・グリボエードフ”が暗殺される事件が起こりました。大国・ロシア相手の事件であったため、ファトフ・アリー・シャーは使節として孫をロシアに贈り、詫びの品を持たせました。そしてその品々のなかに、シャー・ダイヤモンドも含まれていたのです。
こうして、シャー・ダイヤモンドはロシアの皇帝“ニコライ1世”の手に渡り、現在もロシアの所有となっています。

現在、シャー・ダイヤモンドを見ることができるのはロシアのクレムリンにある“ダイヤモンド庫”。このダイヤモンド庫は世界でも有数の宝石保管庫であり、シャー・ダイヤモンドのほかには伝説のダイヤモンド“オルロフ”やダイヤモンドで作られたロシアの地図なども見ることができます。ダイヤモンド庫を訪れれば、婚約指輪から連想されるようなロマンチックなイメージだけではない、壮大なダイヤモンドのイメージも感じられるかもしれません。

婚約指輪として身近な存在になったダイヤモンド

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シャー・ダイヤモンドが辿ってきた歴史のように、かつてのダイヤモンドは権威ある皇帝が愛するような“特別なジュエリー”でした。婚約指輪としてメジャーな0.3カラットのダイヤモンドからは想像もつかないようなとても大きなダイヤモンドが、王座や王笏などに飾られていたのです。それが現在は一般にも身近な存在となり、日本人の約9割は婚約指輪のジュエリーにダイヤモンドを選択するといいます。

シャー・ダイヤモンドのように、ダイヤモンドそれ自体に名前を入れるというのはあまり聞かない話ですが、婚約指輪に名前を刻印するというのはよく見られる愛の形です。もちろん、婚約指輪のダイヤモンド部分ではなく、刻むのはリング部分。名前だけ、イニシャルだけを婚約指輪に刻むケースもあれば、愛のこもったメッセージも添えて刻むケースもあります。世界にひとつだけの婚約指輪にするためには、“名前を刻む”というのはとても素敵なものなのかもしれません。

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